「『ゆとり教育』=『知的亡国政策』」っていう考えはそろそろ止めにしないか

ゆとり教育』の話がしたい。
誰かがアホなことをやれば「ゆとり教育のせいだ」と揶揄され、どっかのVIP系まとめブログにも『これはひどいゆとり教育ですね。』っていう形でバカにされてるのが違和感バリバリなわけでして、しかもこの傾向に反論している人が結構少ない。だから根本的に誤解されてる部分を洗い出してみたい。

学校が教育するのか、親が教育するのか

ゆとり教育反対側の言い分として、「『詰め込み教育』がいくらひどかったからと言って、学習内容を減らし過ぎ。国力そのものが下がったらどうするんだ。」というのがある。確かに納得のいく論理だが、この論理の観点から言うと『教育する側が学校のみ』ということになる。実はここがポイント。
賛成側(文科省側)の理論として、少なくとも日本では学校外の教育環境が十分整っているという前提から話が始まっている。事実、少し自転車を走らせれば図書館はあるし、本屋もかなりの数があれば、補修のための児童館、洗練された授業を行う塾、さらにはインターネットという上質の情報媒体もあるわけで、学校に行かずとも熱意さえあればいくらでも勉強できるような環境に居るわけです。金が全く無いとしても、図書館、児童館は無償で使える。
それに、塾へ通う中学生が8割超えたとなると、文科省としては「塾の方が教えるのがうまいんだったら、学校でわざわざ教える必要無いんじゃないか? じゃあその二重になってる部分を削減して、生徒のやりたい勉強や学校でしか出来ない勉強をやってもらおう」って発想から来たのが「ゆとり教育」な訳です。ちなみに『学校でしか出来ない勉強』ってのは集団生活に慣れるためとか、コミュニケーション能力の育成とかいう意味であって、『総合学習』ってのもここに含まれる。『ゆとり教育』だと学問としての知識を与える側、要するに図書館とか塾とか行かせて子供を教育する側っていうのはになる。
つまり、ゆとり教育反対派が「学校が教えるべき」って考えているのに対して、ゆとり教育賛成側(文部科学省側)は「親が教えるべき」って考えているわけです。別にここまでは良い。問題なのはゆとり反対側がこの事実に気付いてないということ。

ゆとり教育の利点

そもそも学校というのは教育機関なわけで、昔は「そこ」しか教育を受けれる場所がなかった。もちろんその頃は社会自体の教育水準が低くて、熱意があっても勉強できる環境も整っていない場合も多かった。
そこから段々と60年代〜70年代の高度成長期に入るにつれて、受験戦争が始まり、教育環境がまたたく間に整備された。この頃は「勉強して良い大学を出れば安泰」という構造と考えがあったので、学校側がいくら勉強量を増やしても問題にはならなかった。
ただ、現在はそれが否定され、多種多様なニーズがあるわけです。スポーツ選手やら伝統工芸やら、ミュージシャンやら、もちろん学問の方に進む人だっている。だったら、個々のなりたい職業に向かって訓練と勉強をしてもらった方が良いわけで、「公共の」教育機関としては、なるべく専門の勉強&訓練をやってもらうために余分な勉強は削減し、どんな職業に就いたとしても役に立つようなことを教える、というスタイルになる。だからさっき言ったように「コミュニケーション能力」とかが出てくるわけです。

ゆとり教育否定側が考えるべきこと

学力低下」の話は、上に書いたようなことを親側が理解していなかった可能性が高い*1
上に書いたように文部科学省の理屈としては「最低ラインってわけじゃないけど、学力低下して困ってる」って言われても、「じゃあ親御さん頑張ってください」としか言いようが無いんですよ。(現在は数の論理に屈服して文科省謝罪とかしてるけど)
もし本当に「ゆとり教育は良くない」と考えるんであれば、「今の時代に、義務教育を使ってまで学力を重視する意味」とか「何故今の時代に、学問を教育するのに学校じゃなければいけないのか」あたりを考えないといけない。多くのゆとり教育否定論者はここの議論がすっぽりと抜けてる。
賛成派否定派うんぬん以前に、議論そのものがあまりされていないからこそ、エントリを書いてみたわけです。

続きのエントリ
花見川の日記 - 日本の学習環境格差は埋められないのか  (7/2)
花見川の日記 - 「学力低下」のうさんくささ  (7/3)

7/2追記

教育研究所ニュース 2002年 4月号……塾に行ってる小学生、中学生に関するソース
日本財団図書館 - 私はこう考える【教育問題について】……習熟度別教育は公立小・中6割超に拡大(2003年6月時点)

リンク集

とりあえず役に立ちそうなリンク集を。ここから興味を持っていただければ幸い。
ゆとり教育 - Wikipedia……比較的中立な記事。
やる気を作る教育プログラム「7つの習慣J」 - ゆとり教育の成果と課題……非常に短くまとまってます。
人力検索はてな - 今、日本の学生の学力低下しているとありますが これは詰め込み教育からゆとり教育に変えたからですか? 日本の学生の学力を向上させるにはどうすれば いいのでしょうか?..……かなり良質の論理が展開。必読。
極東ブログ: 「ゆとり教育」という言葉にこだわる……ゆとり教育に疑問を抱いた筆者が言葉そのものを調査。コメント欄が勉強になります。
Yahoo!掲示板 - 全般 - ゆとり教育に反対 (Msg:8657)……非常に的を得た意見。
普通の専業主婦だって、文句があるさ!:ゆとり教育の失敗……高校生の息子を持つ主婦の意見。非常に参考になる。
FPN-「ゆとり」教育は間違っていない(?!)……冷静な意見。
ゆとり教育、学力低下を解体する「論考空間」……現在の教育に対しての考察。読み応え有り。
ブログで情報収集!Blog-Headline/interest: ゆとり教育 ゆとり教育について考える……両方ともリンク集。ゆとり教育のエントリを集めてます。
黌門客 - ゆとり教育は何処へ……賛成、反対とは毛色の違う意見。鋭い。
pya! ゆとり教育の結果……すごい そうごうがくしゅう  [ネタ][画像]

*1:文科省のスピーチ不足ってのはもっともだけど