はじめに
経緯
↑の記事を書いた後、古からのオーデイオ・オタクであるc_CさんにTRN ORCAが好評で、「次にもう少し高いイヤホンで良いものは無いか?」と聞かれたため、「これはシャッシャッと優秀なイヤホンを提示しなければならぬ!」という思いと同時に、「初心者が2個目に買うイヤホンとしてまとめてみてはどうか?」で良いとこ取りをしようとしたため。
記事の方針
- 価格帯:6000~11000円
- 多少価格が前後するのはあり
- TRN ORCA(Type-C版)より音質が良いと思われるものを選ぶ
- できれば差を感じやすいもの
- 花見川の所有イヤホンから選ぶ
- ポタオデ初心者が2本目に選ぶ手引きに
- ドライバ構成を意識した記事構成に
基本事項共有:ドライバの種類
ドライバの種類で記事構成分けているので、念のためドライバの基本事項を記載する。
DDについて
「ダイナミック(D)ドライバ(D)」の略で、永久磁石とボイスコイルにより振動板(ダイヤフラム)を振動させて音を出す。なお、1つだけダイナミックドライバを搭載したイヤホンを「1DD」のように書く。
構造上低音を出しやすいが、高音部分が課題となりやすく、後述のBAドライバで高音出力を代替(ハイブリッド構成)することも多かった。しかし、技術の進歩により2020年頃からエントリークラスにも1DDで全音域満遍なく出力できるドライバが出現し、現在では1DDで完結するイヤホンも多い。
2024年現在では、全音域完結するDDを複数搭載(例:3DD)し、低音を分厚くしたイヤホンも多く見かける。
なお、振動板部分の素材やメッキの種類により、音の傾向がかなり変わってくる。
audio-technica公式HP「イヤホン・ヘッドホンを識る」-「2 ヘッドホン・イヤホンの構造」-「ドライバーユニット」より引用
BAについて
BAとは「バランスド・アーマチュア」の略で、音声信号を受けたアーマチュアがドライバーロッドを通じて引っ張ることにより振動板(ダイヤフラム)を振動させて音を出す。構造上小さくしやすく複数搭載しやすいが、表現できる周波数帯が狭く、1ドライバで高域のみ担当してDDを補助(1DD+4BAなど)したり、多数搭載(5BAなど)して全音域をカバーしたりする。
BAは伸びる高域を出すが、質感が若干金属的なのが特徴で、「BAの音」と呼ばれることが多かった。2024年現在では各ドライバを調整して全体の質感を自然にしたり、BAそのものが自然な質感の音を出すケースも多い。
余談だが、元々補聴器用のドライバで現在でも使われている。
audio-technica公式HP「イヤホン・ヘッドホンを識る」-「2 ヘッドホン・イヤホンの構造」-「ドライバーユニット」より引用
……という経緯を踏まえた上で、ドライバ構成別にお薦めイヤホンを紹介していく。
1DD
KEFINE Delci:¥7000~10000
低域中域基調の暖色傾向オールラウンダー1DDイヤホン。
低域と超低域がよく効いているが、適度な締まりがあるため品が良い。
暖色系のやさしい音のため、聞き疲れもしない。
高音は大人しくあまり伸びないが、必要な時にはしっかり出る印象。音場は広い。
特筆事項として、イヤーピースをTRN T-Ear Tipsに付け換えると、ガッと寒色方向に寄って、低域高域基調の若干暖色寄り中立イヤホンに変貌すること。
低域はカッチリ締まり、resolution(輝度)は上がり、音は明晰になる。TRN ORCAの上位版みたいな音。
なお、2024/09/14時点だと、Amazonでは若干高騰気味なのでアリエクで買うと吉。
ConchやORCAのようなTRNのイヤホン持ってる方は是非とも試していただきたい。
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Kefine Delci が届いた pic.twitter.com/vjYRH8FmW3
— 花見川 (@ch1248) 2024年5月13日
Maestraudio MA910SR アイドルマスターU149Edition:¥8000~10000
Maestraudio MA910SR(相場¥17500)のアイドルマスター版。
オリジナルとは接続端子がMMCXという違いのみで音質がほぼ変わらないにも関わらず、大体¥10000、時々¥8000という破格の値段で売られている。
音はやや寒色寄り中立低域高域基調(弱V字)。
ボーカル(中音)がよく映え、resolution(輝度)は高く、全体的に音に締まりがある。
音場も適度に広く、定位も良く、分離能も高く、各ジャンルの質感も良く、(この価格帯としては)これと言った弱点が無い。
「いや、アイマスとか知らんけど……」という人もいると思うが、Amazonやフジヤエービックで¥8000で売られているのを見たら騙されたと思って買ってみて欲しい。
なお、2024/09/14時点で、在庫切れが目立ってきているので、欲しい人は今の内に確保しておいた方が良いかも。
Xでのリアルタイムレビュー
Maestraudio MA910SR アイドルマスター シンデレラガールズU149 Edition 古賀小春モデルが届いた pic.twitter.com/LaRDOV0Bj5
— 花見川 (@ch1248) 2024年5月21日
SIVGA Que:¥10000~12000
暖色系低域中域基調高解像度イヤホン。
音場が広く、非常にresolution(輝度)が高い。
低音がアタック感がありつつも、深い所まで鳴り、超低域もよく出て心地よい。おそらく低音に関しては今回紹介した1DD系では最も質が高い。
高域は控えめかと思いきゃ、なかなか鮮烈で刺さらない限界ラインの所まで主張しつつ、美しく伸びる。
空気感の良さの表現が上手く、アンビエントやソウルなどのジャンルにもよく合う。
さらには北米産メープルを使ったハウジングは上品で、ケーブルも取り回し良く手触りも見た目も滑らかだ。
欠点としては、definition(音の輪郭の明晰さ)が若干低いことと、
(節度のある部分で止まるが)低音が膨らみを持つ部分で好みが分かれること、
高音が鮮烈でその手の刺激を嫌う人には向いてないこと、この辺りだろう。
欠点が多いようにも見えるが、これだけ量感と弾力感、深みのある低音を表現しつつも、高音は隠れず美しく主張し、かつ音場も広くて定位が良く、各ジャンルでも質感良く、実際に聞いてみると不得意なジャンルがあまり無いという極めて優秀なイヤホン。
欠点の部分で好みが若干分かれる部分があるが、珍しいタイプのイヤホンでもあり、好みで無くても買う価値があると個人的には感じる。
逆に、好みの人には決して手放せない一本となるだろう。お薦め。
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SIVGA Que が届いた pic.twitter.com/AV2MDRlc5B
— 花見川 (@ch1248) 2024年8月13日
1DD+nBA
ND X12:¥4500~7500
中級者向けハイブリッド(1DD+5BA)イヤホン。
下の図の通り、スイッチ付きで3モード(011/101/110)用意されているが、デフォルトは「000」であり高域がキツく、バランスの悪い音になっているので必ず変更する必要がある。
イヤホンスイッチ用ピンを使ったり、無い人は芯の出ていないシャープペンや爪楊枝を使ってやさしく切り替えよう。
筐体の能力と比較して、付属ケーブルもそこまで質が高いものでは無いので、リケーブル推奨。
スイッチの件も含めて、ある程度判ってる人(=中級者)向けイヤホンと言える。
高音基調寒色系の音で、KZ D-FIやEDC Proのような近年のKZ 1DDに似た鮮烈な高域を持つ。
解像度は特にresolution(輝度)が高く、音場はそこまで大きく無いが音場表現は奥行きを若干感じるし、音の追従も割と良い。
音の傾向的にややジャンクフード的で、高域の質感が粗い部分があったり、音の正確性は良くない。
その分、テンポよく楽しく鳴らす節があり、ふとうまい棒の雑な食感と味が恋しくなるのと同様に、何かの拍子に聞きたくなる音。
人を選ぶ音質ではあるが、合う人には良い相棒となってくれるイヤホン。
なお、DACなどの上流の影響も受けやすく、「iPhone(Apple Music)→FIIO KA3」環境だと「110」が最も良く感じたが、「PC(Amazon Music)→APS-DA101」環境だと「011」が最も良く感じた。
KZ ZS12 Pro X(スイッチ付き):¥4800~8700
こちらもND X12と同じ1DD+5BA構成だが、音傾向はかなり異なり、低音基調の非常に均整の取れた音。金属筐体なせいか音の響きも良く、見た目も堅牢で格好良い。
スイッチ付き版(チューニング可能版)とスイッチ無し版があるが、必ずスイッチ付き版を買うこと。というのもスイッチ無し版は高音基調低音少なめな音で悪く無いのだが、ZS12 Pro Xにする必然性が薄い。スイッチ付き版は、
- スイッチ1:ONで低音を増やす
- スイッチ2:ONで低音を増やす
- スイッチ3:ONで低音を増やす
- スイッチ4:ONで高音域を抑制する
となっており、スイッチ全てOFFだとスイッチ無し版と同じ音で、スイッチ1~3のONにしたものの数が増えていくほど低音が増える。
では、「スイッチ全てONにした際は低音バカになるのでは?」と思ったら大間違いで、低音が非常に上質で重すぎない上、高音もきれいに響く。ZS12 Pro Xはスイッチ全てONで真価を発揮できる。
そして、イヤーピースはフジツボ状シリコンタイプと、筐体に最初から装着済のフォームタイプのものがあるが、必ずフォームタイプのものを使うこと。しっかり低音が響くようになる。
俺はこの状態でのKZ ZS12 Pro X の低音がとにかく好きで、ゴリッとガツンと響くベースだけでなく、サブベースも静かに唸るように響くのに、高音を全く邪魔せず、高音は高音で伸びていく。これが本当によい。
特に男性ボーカル曲やサブベースが広がる曲を非常に魅力的に鳴らす。
ケーブルはいつもの低品質のものなので、端子が2PINやQDCのものでリケーブルすると、より音質が向上する。Conch付属のRed-Chainも接続可能で、高音が明晰になり、ベースの弾力が上がる。
リケーブルでわかりやすく変わるので、2個目のイヤホンとして適切だろう。
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KZ ZS12 PRO X が届いた pic.twitter.com/95cSmVe471
— 花見川 (@ch1248) 2024年8月8日
nBA
KZ AS10 Pro:¥4500~11000
BAのみで構成された5BAイヤホン。
BAは高音はが得意と言われがちだが、むしろ本機は中音域や低音域が得意で、ZS12 Pro Xに音の方向性が近い。
ゴリッとした低音も出してくるし、サブベースも割と出る。ZS12 Pro Xと比べると音が暗めで濃厚で、やや落ち着いた印象がある。
そして、質感についても一部高音が金属的な部分があるが全音域の質感は良く、良い意味でBAっぽさが少ない。割と音場も広く、音場表現もなかなか上手い。
割と何でもこなすイヤホンなので、初BA機&オールラウンダー機としての2台目に良いイヤホンだ。KZケーブルなので、リケーブルの伸び代が大きい点もポイント。
こちらもZS12 Pro Xと同様に、フォームタイプのイヤーピースが最初から装着済なのでそのまま使おう。
なお、Amazonで買うよりアリエクで買う方が圧倒的に安いので、購入時は注意。
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KZ AS10 PRO が届いた pic.twitter.com/7c4SdvaYId
— 花見川 (@ch1248) 2024年8月9日
1PD
※2024/09/15:ESTと記載していたため、PDに修正
NICEHCK F1 PRO ¥10000~¥15000
本記事で唯一の平面磁界駆動ドライバ(PD)搭載イヤホン。
平面駆動ドライバはDDの一種ではあるのだが、自分も理解できていないことが多いのですのーさんの記事でも読んでくれ(丸投げ)
平面駆動イヤホンは素直で自然な音を出すものが多く、平面駆動の正道を行くタイプだと感じたので今回紹介する。
F1 ProはZS12 Pro XやAS10 Proのような低音の強さは無いが、この価格帯には似合わない全音域で自然で澄んだ音を出す。
傾向は寒色系でベースは盛っていないはずだが、サブベースの補助が厚く、低音の満足度が高い。高域と中域の解像度は高く、高域は美しく伸び、中域も魅力がある。全体的に音のバランスが良い。音場は広く、立体感があり音場表現も良い。
音質とは別の面も取り上げると、デザインがシャープな感じで良い。
NICEHCKがケーブルメーカーなので、ケーブルの質が高く、取り回しも大変良い。ケースも割と高級感がある。
結果的に絶賛してるが、この通りなので困る。
平面駆動に興味があったり、バランスの良い音を2本目に欲しい場合に非常にお薦め。
いや、むしろ1本目でもいいかもしれん。
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アリエクより届いたもの その4
— 花見川 (@ch1248) 2024年7月5日
NICEHCK F1 Pro pic.twitter.com/si5HMcjEUi
あとがき
途中謎の頭痛が二週連続続いたせいもあり、書き上げるのが一ヶ月ほどかかってしまった。
書いてる途中にイヤホンの在庫や価格が変わるので、再度見直す羽目にもなった。というか、1ヶ月で状況が目まぐるしく変わるのが有線イヤホン界なので、2本目を購入する皆さんは覚えておきましょう。
ちなみに、この中でどれがトップクラスに好きかと言われたら、NICEHCK F1 ProとSIVGA Queです。
この2機は音質は寒色と暖色、デザインはメタリックとウッドと色々対称的なとこも気に入ってて、どちらか1本ではなく、2つセットで欲しい派です。好き。
それでは皆さん良いイヤホンライフを。