- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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寺の坊主候補の学生の話。極めて内向的で、思い込みが激しく、よくどもる。早い話、よくいる典型的なダメ人間なのだが、三島由紀夫の文章力のおかげでこのダメ人間がいかにも格調高い人間に見えてくる。ここがまず凄い。
以下ネタバレ。
さらに主人公は美の基準がすべて金閣寺という変態であり、美しいものを嗜むときは毎回金閣寺と比較する。風景なり、尺八の音なり……。いちばんビックリしたのが、ある女性と一夜を共にしようとしたときのシーン。一般的にダメ男はダメ男なりに女性と関われる機会があるものだが、もうここぞ!といった瞬間に……
目の前に金閣寺出現。
金閣寺の圧倒的な美の前に、結局童貞喪失ならず、といういろんな意味で凄い小説だ。*1 つか、そんなシーンに金閣寺持ってこれるっていう発想が凡人には不可能。そもそも『金閣寺』という具体的なモノで抽象的な世の中の美を表現しようとしていることに脱帽する。普通なら抽象的なモノで美を説明しようとするだろうに……。
物語後半には、そんだけ自分の中で大切な金閣寺を燃やすという決心をしてしまう。自分の基準を燃やしてしまうのである。並みの作家ならストーリー構成が見事なまでに崩壊しそうな設定だが、三島は見事に物語として、しかもごく自然に成り立たせている。そこも凄いのだ。
時々仏教に関するキーワードや、禅宗の公案*2などが出てきて、思想が編みこまれた小説……というか、評論から構成された小説という印象を持った。総じておもしろい、というより興味深い小説でした。
そういえば、最近ホットエントリで三島由紀夫の動画があったけども……、物書き特有の陰鬱さとか軽さみたいなモノが全然無いですな。一言で言うなら武士。目の色の深さ、言論の重さが現代人とは違ったのが印象的だった。「死ぬ覚悟」みたいなもんが出来てたんだろうねえ。