五月二十二日午前五時半頃

通常、早朝という時間帯は非常に清々しいもののはずだが、渋谷駅前は明らかに違った。

寝ていないせいか、行き交う人は皆顔に精気が無く、死体のように街中に転がって寝ている者もいる。それとは対称的にカラスは精力的に生ごみをつついている。自己主張するように何度も鳴き、近くまで行っても逃げようともしない。この場所の主は人間ではなくカラスであるような錯覚さえ受けた。
よく見れば周りは、夜の間に捨てられたゴミがまんべんなく道に飾られ、カラスのせいで突き破られたゴミ袋から異臭がでているせいか、周りが臭い。
最近の「美しい日本」というようなキャッチフレーズに躍らされてやってきた外国人あたりが、この惨状を見てショックを受けて帰る様子を、Uターン禁止の標識の上でけたたましく鳴いているカラスを見ながら想像していた。
そんなことを考えていたら、家まで向かう始発のバスがやってきた。
運転手の心地よい声に誘われつつ、疲れた体をひきづるようにしてバスに乗り込んだ。