日本の学習環境格差は埋められないのか

7/1エントリの『ゆとり教育』=『知的亡国政策』」ではないからの続き。


さっそくブクマで反論をいただいたので、書くこと書いてしまおう。もう少し「学習環境」の部分について掘り下げる。
まず、学習環境格差を埋める重要なファクターとしてインターネットがある。

アメリカの不況時とインターネットの活用

元々インターネットは大学間でのコンピュータを接続するために開発され*1、政府側で軍事利用されたりもしていた*2のは有名な話ですが、じゃあ何のために大衆側へインターネットが導入されたのかってのは結構知られてない。実は教育のためだったりする。
日本がバブル絶頂期だったころ、アメリカは不景気のドン底でどう抜け出すかを必死で考えてた。
「今、日本はあれだけの戦後復興をし、今(80年代当時)も景気が良い。何故か? そういえば日本は教育に非常に力を入れていた。そうか日本は教育に力を入れたことで今の経済状況があるわけか。じゃあ我々も教育に力を入れよう。」という方針となった。ただ、アメリカは日本と違い国土が非常に広く、満足に本も買えない地域や学校まで片道80kmなんてのもザラにあり、日本のような行き届いた学校制度というのは事実上不可能。そこで目が付けられたのがインターネット。これなら電話線が届いているだけで良質な情報が比較的簡単に、安価で手に入る。
97年、クリントンがこんなこと言ってる。

「第十。私たちは情報時代の力をすべての学校に取り入れなければなりません。私は昨年アメリカを促して、2000年までに全国の教室と図書館をインターネットにつなげよう、それによってわが国の歴史上初めて、最も孤立した田舎町や最も快適な郊外の子供たち、最も貧しい都心部の学校の子供たちが同じ知識の世界に同じようにアクセスできるようにしようではないかと呼びかけました(拍手)。これが私の計画――アメリカの教育のための行動の呼びかけ――です。大統領が教育に対してここまで注目するのは尋常ではないという人がいるかもしれません。

実際その試みは成功してアメリカは好景気に突入したわけです。
で、このテの話を聞いたのは実は6年前。母校の化学の先生が経済方面の大学教授と仲が良くて、当時授業を受けていた生徒(俺含む)に「経済界ではこの話は常識。IT産業はその副産物のような形。」と言ってたのが印象的だった。
考えてみれば非常に優秀な教育ツールなんですよね、ネットって。(掲示板やメールによる相談もできるし)

勉強できる環境は整っている

日本じゃ考えられないような極貧の環境*3でも図書館に行くのは無料だし、そこのネット接続されたPCをいじるのも無料だ。税金さえ払ってれば使える。
では弁護士や医者、薬剤師、官僚あたりのどうしても学歴が必要な職業のケースについて考えてみる。
どうしても解らない部分があれば、小学・中学の段階なら義務教育なわけだから先生に聞けばいい。そのレベルなら周りの身近な大人に聞いてもいいだろう。高校受験をやりたいのであれば、ネットで過去問検索して研究すればいいし、大学に入るのが目的であれば大検の方に行く手もある。
じゃあ、高校教育〜大学受験レベルはどうするか? 貧乏人は予備校・塾なんざ通えないだろって話になるかもしれない。だが、最近の高校教育向け、大学受験向けの問題集、参考書を駅前の本屋で手にとって見て欲しい。恐ろしいまでに解説が詳しい
30〜40年前は「先生や塾講師・予備校講師に習わないとダメだ」という雰囲気があったものの、その後、有名な講師自身がわかりやすい参考書を多数出版し、さらに前に出版されたものよりも優れたものを出す……という競争が行われていたため、恐ろしいまでの完成度を誇る参考書、問題集が多数出ている。また、現在では学校で配布されるタイプの問題集にも「わかりやすいものを」という考えが浸透し、自分が高校2年の時に配布された数学の問題集の「スコープ」は問題集本体の2倍の厚さの解説集が付いていた
事実、大学受験参考書あたりは他の資格試験の参考書と比べ、最も充実しているのは確か*4で、ネットで本の評判をいくらか調べて、必要な科目の本を数冊買えば、自学自習できてしまえるような状態。お金が無ければ古本屋で本を買ってしまえばいい。(図書館もある)
学費の安い国立大学に受かってしまえば、日本学生支援機構の奨学金(大学であれば月3〜10万円支給 金額選択式)で学費を払って卒業すれば何とかなるという状況か。

縛らない自由

花見川が「ゆとり教育反対」に反対する理由のひとつに、こういう「貧乏だけどモチベーションがある」っていう生徒に対して、学力低下を防止するために義務教育の授業数増やして拘束時間を増やしたらまずいんじゃないかっていうのがある。貧乏というハンデがある分、勉強だけは先取りしておきたいのに無理やり拘束されるので足を引っ張る形になってしまうからだ


(続きのエントリ)
・花見川の日記 - 『学力低下』のうさんくささ
http://d.hatena.ne.jp/ch1248/20060703#p1

*1:コメント欄でツッコミ入ったんで加筆しました。

*2:爆撃を受けて数箇所のコンピュータがやられたとしても、全てをつなげておけばどれかが動くという発想

*3:日本は中流階級の人間が大多数なので、こう考えるのはナンセンスかもしれないが

*4:参考:神田の三省堂本店あたりは丸々1フロアが受験参考書コーナー